酸素分子だけが通れる隙間がゴムに空いているわけではありません。
しかし、酸素透過係数(=溶解係数×拡散係数)は、窒素透過性より大きくなっています。
酸素分子は、窒素分子よりゴムに溶けて込み拡散しやすい分子です。
下の表は、気温25度の時と50度の時の透過性を、25度の時の天然ゴムの窒素透過性を1とした相対値です
| 酸素透過性 | 窒素透過性 |
25度 | 50度 | 25度 | 50度 |
ブチルゴム | 0.2 | 0.6 | 0.03 | 0.2 |
スチレン・ブタジエンゴム | 2.0 | 5.3 | 0.8 | 2.2 |
天然ゴム | 2.8 | 7.2 | 1.0 | 2.9 |
シリコンゴム | 6.1 | 7.6 | 3.1 | 4.4 |
各種ゴムの酸素透過率は窒素透過率のザックリ2倍から3倍です。
特にシリコンゴムの酸素透過性は良好です。
このため、酸素を透過するコンタクトレンズには、酸素透過性を天然ゴムの30倍程度に高めたシリコンゴムが使われています。
シリコンゴムはタイヤにも使われています。
シリカ100%のコンパウンドを使ったタイヤが、ミシュランやブリジストンから発売されています。
シリカなので白いタイヤになるはずですが、紫外線対策として黒くしてあるので見分けはつきません。
シリカ配合率の高いスタッドレスタイヤなどには、窒素おすすめかもしれません。
しかし、タイヤには通常、空気抜けを抑制するためにインナーライナー層があります。
インナーライナー層には、塩素化ブチルゴムや臭素化ブチルゴムが使われています。
ブチルゴムは、酸素透過率が低いゴムの代表格です。インナーライナーの他にも、タイヤのチューブやバルブ、パッキンなどにもブチルゴムが使われています。
酸素分子だからといってダダ漏れということはありません。
ちなみに、航空機のタイヤ圧は、1200~1400kPa
2.00kgf/cm2( 約200kPa)前後の二輪タイヤの6~7倍もあります。
航空機ほど高圧なら、窒素を充填して抜けにくくしておく必要性も高いのかもしれません。
空気には水分が含まれています。
しかし、水分が気化して内圧が上がることはなさそうです。
空気に含まれる、飽和水蒸気量は
温度10度の時 9.41g/m^3
温度30度の時 30.38g/m^3
タイヤに入る気体は30リットル(0.03/m^3)くらいなので
10度で 0.28g
30度で 0.91g
飽和水蒸気量は、湿度100%の空気に含まれる水蒸気なので、
湿度40%だとすると、
10度で 0.11g
30度で 0.36g
この水が、水蒸気のとしてタイヤ内にあるのであれば、水蒸気の熱膨張率は、窒素や酸素と同じですので問題ありません。
しかし、この空気に圧力をかけると露点は上がり、空気中の水蒸気が液体の水に戻ります。液体になった水が、走行中に高温になり、気化すると、体積は1700倍に膨張します。
たった0.05gの水が気化すると約85リットルの気体が生まれ、30リットル程度のタイヤ内部に充満します。
これにより、3kgf/cm2( 約300kPa)くらい圧力が上昇してしまいます。
窒素ガスは、製造の過程で、ほとんどの水分が除去されていますので、水の心配がありません。
とは言え、200kPaの時の水の沸点は約130度なので、沸点に達し気化する心配はないと思います(通常の走行でタイヤ内の空気が130度に上昇しないという根拠はありません)
ただし、レースなどは別のようです。
F1タイヤの最適温度は80から100度だそうですので、120度くらいには達するかもしれません。
このためF1では水分は大敵なようで、ドライエアが当たり前のようです。
水分さえ無ければ良いので、窒素である必要はなく、空気から水分を除去した「ドライエア」が使われているそうです。
摩擦熱で高温になっても,火災や爆発の危険性を回避できる
航空機で窒素を充填するもうひとつの理由が、火災の危険を減らすためです。
発火が心配なら、もちろん窒素ですが、バイクでタイヤの発火が心配ほど過酷な状況は無いと思います。
ジャンボ機は、30秒程度で時速300kmまで加速して離陸し、
時速300キロでフル制動して着陸します。
この時の制動距離は 400から600m(乾燥路面と水濡れで異なる)程度になります。
500mもフル制動続けられるならタイヤ燃えるかもしれませんが、バイクでは無理です。